おばあちゃんが久しぶりにわたしの名前を呼んだ。柄にもなく、寂しくなった時にわたしを呼ぶのだ。いつもは「お前」とか「ねえ」「おーい」なのに。

「何で今日に限ってバカ晴れてるんだと思う?」
「私に聞かないでよ。青空なんて、本当に久しぶりだけど」

 温暖化が進むと曇りや雨が多くなるし、世界中で湿気が広がり、むわっとした何ともいえない臭いが鼻を刺激する。今日は乾燥しているのか、日がまぶしい。天気が崩れると、太陽はむしろ厚い雲に隠れ、わたしたちから見えなくなる。

「リュック、さすがに重かったか。持つよ」
「あんたも限界だろ」
「わたし、若いから。何ならおばあちゃん背負えるけど?」
「調子にのるんじゃない」

 おばあちゃんはぜえはあ言って、二か月分の食費を詰め込んだリュックを頑なに手放そうとせずに、歩き続ける。老体にここまでの距離を行かせたのは無謀だとわかっていた。でも時間がない。できる限りの旅費は調達した。おばあちゃんと生きていくには、何としてでも倒れずに進み続けなければいけないのだ。
 容赦のない日射しがわたしたちを焼く。