すさまじい勢いで空気を切り裂く『列車』。猛スピードで宙を走り、ワープという名のレールに乗って地球を過ぎ去る『列車』。あまりに速いスピードに、わたしは床にへばりついて、飛ばされないように全身を振り絞ってしがみつくしかなかった。
 振り落とされるもんか。
 わたしは、笑ってた。いつの間にか口角を上げてニタリと微笑んでいた。んふふふふ、と不気味に気味悪く発する声を、抑えることができなかった。
 火星は、どんなところだろう。
 突然そう思った。
 若い人が多いって言ってた。みんな熱い気持ちを持って元気に暮らしているんだろうか。楽しそうに生きているんだろうか。優しい人はいるだろうか。
 未来が、あるだろうか。
 わからなかった。ただ、わたしは助かった。転送装置に飛び乗った。どうにかなる。根拠のない自信があった。
 顔から汗が吹き出て、床に水たまりができていた。それが涙であることに、しばらくわたしは気づかなかった。


   了