老衰して小さくなった今のおばあちゃんじゃなかった。子どもの頃、不安で眠れないわたしを、がさつな言葉づかいで安心させてくれた、あの時のおばあちゃんだった。それはお母さんの声にも、お父さんの声にも聞こえた。罵声が聞こえる。みんなが怒っている。わたしに激昂している。

「逃げろコラァ!! 殺しちまうぞ!!」

 走った。
 振り返らなかった。
『列車』のエンジン音がほとんど轟音のようにわたしの耳を刺激する。
 すさまじい光が周りの空気をどんどん薄くする。空間と空間が、大きく切り離されて捻じ曲がる気配がした。
『列車』が発進する。
 直感だった。
 わたしたちはもう二度と巡り会わない。

「跳べ!!」

 おばあちゃんの絶叫がした。
 こんなにうるさい音の中で、おばあちゃんの声だけが、はっきりと聞こえた。
 ありったけの力で、わたしは地面を蹴り上げた。
 手すりを掴む。
 腕が千切れるほどに痛い。
 それでも離すわけにいかなかった。
 今まで出したこともない大声を上げて、わたしは、閉まりかけるホームドアに滑りこんだ。