「『列車』はAIが動かしている無人転送装置だ! やっぱり古い型番だ。火星からワープする時に時間の計算がずれたんだろう。そんなことはお見通しさ! 何のためにずっとアンドロイドやってきたと思ってる!? 生き残るためだよ! 人間よりずっと丈夫な俺が助かるべきなんだ!」

 豹変した永遠は、わたしたちとしゃべっていたことも忘れてしまったみたいに、猛スピードで大きな車体に向かって突進した。
 まるでイノシシのような激しさと足の速さだった。
 確かに彼はアンドロイドだ。人間には真似できない身軽さで、周りの人たちを軽々と飛び越えていく。

「乗せろー!!」

 絶叫に近い永遠の声に触発されたみたいに、みんなが暴れ始めた。暴力的な気の高ぶりがわたしたちを追い詰めている。
 暑い。自分の汗で景色がゆがむ。タバコを吸いたい。状況と関係のない思考だけが頭を回る。

「あっ……」

 おばあちゃんが小さく声を上げた。
 わたしも声が漏れた。
 永遠が男の人に足を引っ張られたからだ。
 人々の塊の中に、永遠の体が飲みこまれた。
 その後はもう見たくなかった。何も考えたくなかった。わたしたちは目をつむった。