窓ガラスに亀裂が走る時の音に似た、耳障りな轟音とともに、空が割れた。
 割れた、としか言い表せられなかった。使い古された表現がこんなにも的確に状況を説明できるなんて、今まで知らなかった。空が割れた。本当に。ガラスのように。モニターの液晶画面が内部から破裂して、破片が飛び散った事故を連想させた。あれが空間ワープか。一体どうなってるのだ。頭で処理できない、超常現象のような現実だった。自分の見ているものが信じられなかった。
 それは、とても大きな乗り物だった。
 歴史の授業で習った、汽車という名前の、真っ黒な車体に似ていた。
 黒い煙は吐かれていない。レールもない。いや、レールは目に見えないだけで、きっと車輪の下にあるのだろう。ワープ専用の空間移動の装置でもついているんだろうか。
 ところどころ擦り切れた手垢の残る、使用感がぬぐい切れない古さがあった。大きな煙突は遠目から見ても錆びついた汚れが目立っていて、劣化していた。そもそも見た感じが洗練されてない。まるで田舎から来た娘が化粧のやり方を知らずに都会の服だけ着てしまったような、隠しきれない違和感があった。
 これが、『列車』。