ちっ、と舌打ちが聞こえた。おばあちゃんだ。

「若い娘にしつこくするんじゃないよ。ババアにも話を振ってやる礼儀は見せないのかい?」
「ええ……? おばあさん、名前は?」

 永遠は少し嫌そうに尋ねた。

「早苗だよ、早苗。こっちはひかりだ。わかったら無駄口たたくな。体力が削られる」

 確かにそうだ。晴れているせいでいつも以上に暑い。気温なんてもう知りたくない。とにかく進む。足だけを動かす。それだけに集中する。
 周りの空気が変わったのは、わたしたちが会話をやめてすぐのことだった。
 こんな感覚は初めてだった。
 空気が振動するような、奇妙な音といえばいいのか。景色に割れ目が入るような、一瞬の違和感が走った。
 それは瞬く間に異変を知らせた。
 周囲の逃亡者たちが動揺する声。何かが起きた。何かを感じる。正体不明の焦り。

「『列車』だ!」

 突然、永遠が叫んだ。

「『列車』が来たんだ! 予定よりずっと早いぞ!」

 永遠の叫び声は一気にみんなの耳を震わせた。雰囲気が一変する。びりびりした緊張感が辺りの意識を電流のように痺れさせる。

「見ろ! あれだ!!」

 永遠が指さす方を見た。