午後三時三十分になると、ゆめみ祭のクライマックスとなる演目が始まった。吹奏楽部で結成されたバンドの楽曲二曲を披露して、最後のフィナーレとして僕のピアノ演奏で幕を閉じることになっている。
辺りを見渡しながら、人の波を掻き分けてステージへ向かう。
やっぱり来ていない。分かりきっていたことなのに少し気を落としているのは、多少なりとも期待している部分があったからだろう。
大きな効果音と共に、吹奏楽部のメンバー三人がステージに現れた。客席から「わあああ!」という歓声が湧き上がる。まるで人気アーティストのライブ会場のような盛り上がりだ。
ステージから視線を離したとたん、ドンッと鈍い音がして体が後ろへ倒れた。
相撲部らしき体格の良い男子生徒がぶつかって来たようだ。人混みで気付いていないのか、彼は両手に食べ物を抱えて去って行った。揉みくちゃの人口密度では仕方ないか。
「──痛っ!」
立ち上がろうとして、右手の小指にズキッとした激痛が走る。誰かに手を踏まれた。
右手をかばうようにしてその場をすり抜け、ステージ裏のテントへ入った。
首筋や背中に冷や汗が流れてくる。ジンジンと熱を持ち始める小指の関節は、赤く腫れ上がっていた。
「直江先輩、その手どうしたんですか?! ちょっと、誰か……」
裏方を担当している二年の女生徒が、異変に気付いて血相を変える。
「大丈夫だから。養護の先生呼んで来てくれる? もう出番だから、応急処置をお願いしたいんだ」
「わ、わかりました! でも、さすがにその手では……」
当然の反応だ。
今、右手小指の感覚はないに近い。突き指か、あるいは骨にヒビが入っているかもしれない。動かさないのが懸命だろう。
「弾きたいんだ。これが、伝える最後のチャンスかもしれないから」
辺りを見渡しながら、人の波を掻き分けてステージへ向かう。
やっぱり来ていない。分かりきっていたことなのに少し気を落としているのは、多少なりとも期待している部分があったからだろう。
大きな効果音と共に、吹奏楽部のメンバー三人がステージに現れた。客席から「わあああ!」という歓声が湧き上がる。まるで人気アーティストのライブ会場のような盛り上がりだ。
ステージから視線を離したとたん、ドンッと鈍い音がして体が後ろへ倒れた。
相撲部らしき体格の良い男子生徒がぶつかって来たようだ。人混みで気付いていないのか、彼は両手に食べ物を抱えて去って行った。揉みくちゃの人口密度では仕方ないか。
「──痛っ!」
立ち上がろうとして、右手の小指にズキッとした激痛が走る。誰かに手を踏まれた。
右手をかばうようにしてその場をすり抜け、ステージ裏のテントへ入った。
首筋や背中に冷や汗が流れてくる。ジンジンと熱を持ち始める小指の関節は、赤く腫れ上がっていた。
「直江先輩、その手どうしたんですか?! ちょっと、誰か……」
裏方を担当している二年の女生徒が、異変に気付いて血相を変える。
「大丈夫だから。養護の先生呼んで来てくれる? もう出番だから、応急処置をお願いしたいんだ」
「わ、わかりました! でも、さすがにその手では……」
当然の反応だ。
今、右手小指の感覚はないに近い。突き指か、あるいは骨にヒビが入っているかもしれない。動かさないのが懸命だろう。
「弾きたいんだ。これが、伝える最後のチャンスかもしれないから」



