教室へ入って、一度立ち止まる。たしか、窓側の前から二列目の席。座りながら、手に汗を握るほど緊張していた。
黒板に書かれた四月十六日という文字や、何ヶ月も前に習った時間割の日程なんかよりも重要なこと。
ドアの開け方には、人それぞれの音が出る。荒々しく豪快な音、力ない弱々しい音、──そして、穏やかで優しさの溢れる音。
「みんな、おはよう」
いつもと変わらない爽やかな香りを振りまいて入って来た彼女を見て、心臓が震えた。
昨日葬儀をしたばかりの日南菫が、目の前にいる。
──彼女が、生きている。
ようやく、時が巻き戻されていることを信じられた気がする。
今日の授業はどれも復習ばかりで、上の空でいても卵を割るくらいに簡単だった。
自分だけが時の止まった世界に取り残されているみたいで、恐怖心が宿るというより好奇心の方が強くなった。
もう一度、人生をやり直しているようで。
廊下をすれ違う時、昼休みや職員室でも日南先生とよく目が合った。僕が思わず目で追ってしまうからなのかもしれないけど、彼女も必ずこちらを見ている。
──菫先生、梵くんのことよく見てるようだから。
クラスメイトである綺原さんの言葉を思い出した。彼女が言っていたことは、冗談ではなかったんだ。
弓道場へ行く前に、珍しく美術室へ立ち寄った。まだ部員は誰もいないが、準備室が少し開いている。授業の選択もしていないから、三年間で入るのはこれが初めてだ。
コンコンとドアを鳴らす。ふわりとした茶髪の後頭部が見えていたけど、念のために。
ふり返った日南先生は、ひどく驚いた表情をしていた。まるで、侍が目の前で刀を振りかざしているのかと思うくらい、この場に不相応な人物を見ている目だ。
「直江くんが美術室に来るなんて、どうしたの?」
どうしても確かめたいことがある。今日一日、ずっと頭の中を駆け巡って離れなかったこと。
黒板に書かれた四月十六日という文字や、何ヶ月も前に習った時間割の日程なんかよりも重要なこと。
ドアの開け方には、人それぞれの音が出る。荒々しく豪快な音、力ない弱々しい音、──そして、穏やかで優しさの溢れる音。
「みんな、おはよう」
いつもと変わらない爽やかな香りを振りまいて入って来た彼女を見て、心臓が震えた。
昨日葬儀をしたばかりの日南菫が、目の前にいる。
──彼女が、生きている。
ようやく、時が巻き戻されていることを信じられた気がする。
今日の授業はどれも復習ばかりで、上の空でいても卵を割るくらいに簡単だった。
自分だけが時の止まった世界に取り残されているみたいで、恐怖心が宿るというより好奇心の方が強くなった。
もう一度、人生をやり直しているようで。
廊下をすれ違う時、昼休みや職員室でも日南先生とよく目が合った。僕が思わず目で追ってしまうからなのかもしれないけど、彼女も必ずこちらを見ている。
──菫先生、梵くんのことよく見てるようだから。
クラスメイトである綺原さんの言葉を思い出した。彼女が言っていたことは、冗談ではなかったんだ。
弓道場へ行く前に、珍しく美術室へ立ち寄った。まだ部員は誰もいないが、準備室が少し開いている。授業の選択もしていないから、三年間で入るのはこれが初めてだ。
コンコンとドアを鳴らす。ふわりとした茶髪の後頭部が見えていたけど、念のために。
ふり返った日南先生は、ひどく驚いた表情をしていた。まるで、侍が目の前で刀を振りかざしているのかと思うくらい、この場に不相応な人物を見ている目だ。
「直江くんが美術室に来るなんて、どうしたの?」
どうしても確かめたいことがある。今日一日、ずっと頭の中を駆け巡って離れなかったこと。



