それほど緊張していないのか。涼しい顔をしてステージを見つめる彼女が、普段より少し大人っぽく映る。

「それで、ご両親とは仲直りできたの?」

 首を横に振ると、そうとだけ返ってきた。
 父も頑固な人だ。一度発言したことを翻すことはしない。よっぽど心を動かす何かがない限り難しいだろう。
 それでも、少しは期待する自分がいた。今となっては、両親関係なくゆめみ祭を成功させることだけを考えている。
 気を遣わせるわけにはいかないし、話題を変えようとした。

「あそこの和っぽい二人、なんかお似合いだよね」
「カップルじゃないなら、これ機会に付き合っちゃうんじゃない?」

 どこからかそんな声が耳に入って、妙に意識してしまう。距離を少し開けたのは、綺原さんも同じだった。
 次々に帰って来る出場者たちを目線で追いながら、肩で息を吐く。三年の出番になり、前のクラス代表者が揃ってステージへ向かった。

「夢の世界を壊すのって、怖くなかった?」

 突拍子もなく、綺原さんがぽつりとつぶやく。風が吹くように自然で、でも決して穏やかではない。

「怖いってより……やらないとって感じだったかな。僕が目を覚さないと、何も終わらないし始まらない気がしたんだ。今思い返しても、おかしな話だけど」

 何か思い詰めるように、彼女は伏し目がちな視線を上にやる。

「いつか私も、終わらせられるかしら」
「……それって、未来の夢のこと?」
「ええ、悪夢のようなね。でも少し、怖い。あなたには、あんな偉そうなこと言っておいてね」

 声色が少し震えているように感じた。本番直前になって、不安が降りて来たのかもしれない。
 ステージにいる司会者のマイクから、三組代表者を紹介する声が聞こえてくる。

「綺原さんなら、きっと大丈夫だよ。もしも何かあった時は──」

 生徒たちの盛り上がる声の中、僕たちはライトが照らす下へ歩き出した。