「梵くんは、明治か大正からタイムスリップして来た学生さんかしら」

 詰襟(つめえり)の制服に学帽を被り、マントを羽織っただけの僕を見てクスッと笑う。

「笑わないでくれる? 人のを見てる分には楽しいけど、自分ではこれが精一杯だった」
「レトロな感じ、結構似合ってるんじゃない?」
「……あ、ありがとう。綺原さんこそ、着物すごく似合ってるよ」
「あら、お世辞でも嬉しいわ」

 妖艶な笑みを浮かべて、耳に髪をかける仕草をする。綺原さんって、こんなに表情のある子だったかな。

「おいおい、俺は? 同じようなマント付いてるぜ? ほら、この仮面なんか最高じゃないか?」
「あら、ほんとね。ずっと仮面付けてたらいいんじゃない?」

 苗木の気迫にやや押されながら、彼女は呆れた声を出して僕らの前から去って行った。
 あんなにもあからさまな態度を取られていたのに、当の本人はご満悦の様子だ。おそらく、からかわれたことに気付いていないのだろう。
 そこが苗木の良いところではあるけど、浮かれた表情を見ていると、さすがに気の毒に思えた。

 グランドに設置されているステージの裏で、ため息を吐く僕と綺原さん。出番を終えた一年のコンテスト出場者が、笑いながら前を通り過ぎて行く。

「どうしてこんな血迷った選出になったのかしらね」
「……同感。勘弁して欲しい」

 学帽を手に握り締めながら、再び深くため息をこぼす。クラス代表として、僕ら二人が仮装コンテストに出場することになったのだ。
 彼女の場合は、ほぼ男子の満場一致で決定したのだが、問題は僕の方だ。

 一番多い投票を得た生徒の体調不良により、二番手だった僕が急遽(きゅうきょ)借り出される羽目になってしまった。
 これも些細な変化なのか、一度目にはなかったアクシデントだ。