結局、両親を説得出来ないまま、ゆめみ祭前日を迎えた。その日は、生徒と教員による前夜祭という名の仮装大会が行われる。
 各自で用意した衣装を披露して、誰が一番素晴らしい仮装だったかをクラスの男女から一人ずつ選出。その中から、最終的に投票でグランプリを決める。

 本祭を盛り上げるためのイベントとして、毎年生徒たちから反響を集めているのだ。
 今年は猫や兎、狼といった動物をモチーフにしたもの。ケーキやパフェなどの食べ物を取り入れたり。人気アニメキャラのコスプレやハロウィンに見立てたモンスターを着る者と多種多様で面白い。

 黒いマントに身を包んだ吸血鬼のような風貌をした苗木が、綺原さんの格好に身惚(みほ)れつつ愕然(がくぜん)としている。

「あああ……なんだよ綺原。てか、魔女か吸血鬼じゃねぇのかよ」
「そんな衣装着るわけないでしょ。それに仮装だなんて、私はこれくらいが丁度いいの」

 淡いラベンダーカラーに、桜と藤の花が描かれた着物で現れた彼女に、思わず目が釘付けになった。女の人の着物姿を見る機会は滅多にないけど、率直に似合っていて綺麗だ。

 タイムリープ前に一度見ているはずなのに、初めて目に映ったような変な感覚。記憶が曖昧になっているのか。それとも、前回は違う衣装だったか、よく思い出せない。

「そういう苗木は、吸血鬼?」
「違う違う! 透明マントを羽織った透明人間だ! あとでこの仮面を被れば完璧」

 スチャッという効果音が付きそうな素振りで、苗木は怪人が付けているような白い仮面を顔に当てた。それを軽く流すように、綺原さんがこちらへ視線を向ける。