起きてるよと返事をすると、また小さな声が落とされる。

「俺ん家ってさ、裕福じゃないくせに兄弟多くて、アイツらに付き合わされてうるさかっただろ?」
「そんなことないよ。賑やかだし、大変そうだけどいいなぁって」
「これが毎日だと、ストレス溜まるぜ?」
「……たしかに。苗木はすごいよ。僕には……無理だろうな」

 昔から兄弟に憧れがあった。何をするにも独りぼっちで、寂しい思いをして来たから。
 みんなで温かいご飯を食べて、笑い合えることに羨望《せんぼう》の眼差しを向けた。
 ──でも。

「しょーじき、直江が羨ましいなーって思うこともあった」

 それは氷山の一角に過ぎないのだと、思い知った。

「人それぞれ、悩みもいろいろ。俺はこの家が大事だし、頑張ってる母ちゃんや出てった父ちゃんに恨みはない。どんなけ文句言ったって、結局この家が好きなんだわ」
「……うん」

 自分に言い聞かせるように、苗木は天井を見つめながらしみじみと話した。
 こうして川の字になって眠ったことが、僕にもあった。遠い記憶の中の僕は、母に抱かれながら幸せそうにしている。
 一人だった分、両親の愛情は全て自分に注がれていたこと。薄れゆく昔が、苗木家(ここ)へ来て少しだけ思い出せた。

「明日は、ちゃんと親と話すよ。いろいろありがとう」
「……おう、頑張れよ」

 誰かと背中を合わせて眠る夜は、どこか懐かしくて温かい。
 久しぶりに幼い頃の夢を見た。父と母に見守られながらピアノを弾く僕は、とびきりの笑顔を浮かべていた。