消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

「なあなあ、そよぎ兄ちゃん。そよぎ兄ちゃんは、家族いないの?」

 布団を敷く苗木の横で、うつ伏せになった低学年の弟が僕に訪ねた。
 足をバタバタさせているし、子どもの言うことだからあまり深い意味はないのだろう。それでも、肺がずしりと重くなる。

「……どうして?」
「だってさ、今日は僕ん家で寝るんでしょ? なんで? 家ないの? 迷子になったから?」

 目をキラキラと輝かせて答えを待っている。
 なんでも知りたがって、父に質問ばかりしていた頃を思い出す。幼稚園くらいの時は、まだ何も考えず無邪気に話していた。
 いつから、自分を閉じ込めて優等生を演じることに徹して来たのだろう。

「おーい、変なことばっか聞いてないで早く寝ろよ」

 放られた掛け布団が弟たちの頭を覆い、笑い声が響く。ゴロゴロと転がって、巻き付いた布団を苗木がぐるんと引っ剥がした。
 僕のズボンをぐいっと引っ張る弟。みんなのはしゃぐ声を聞いて、胸の奥が熱くなる。

「家族も、家もあるよ。お父さんと喧嘩しちゃったんだ。そしたら、大兄ちゃんが泊まっていいよって言ってくれたから」

 真剣に聞いていないのか、弟はズボンのひもをぷらぷら揺らしながら。

「なーんだ。じゃあ、仲直りしたら帰っちゃうんだ。つまんないのー」

 膨れた頬をブッと鳴らして、また笑う。その顔が可愛らしくて、自然と素直になれた。

「また遊びに来ていいかな?」
「来て来てー! わたし、そよぎお兄さん大好き」

 不意打ちで妹に抱きつかれて、思わず固まってしまう。
 あまり小さな子と接する機会がないから、反応に戸惑っていると、横から刺々しい視線を感じた。

「直江、言っとくが妹はやらんからな」
「おかしいおかしい! 目がマジになってる」

 弟妹を寝かせたあと。布団の端で横になっている苗木が、起きてるかと僕に声を掛けた。