消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 その日の夜は、苗木の家へ泊まることになった。啖呵を切って飛び出したのだから、ようようと家へ戻ることは出来ない。父の言う頭を冷やせとは、そういうことだ。

 小さなアパートの一室に、投げ出されたままのランドセル。散らかった教科書を拾いつつ、手慣れた手つきで苗木が空の菓子袋をゴミ箱へ投げ入れる。

「こら、おまえら! 何回言ったら片付けんだよ。出したらしまう、食った袋は捨てる!」

 腹に響くような声を聞いてなのか、開いたクローゼットの奥から、三人の子どもが顔を覗かせた。小学校低学年くらいの男の子と女の子、それから高学年くらいの男の子。

大兄(たいにい)、おかえりー!」

 わっと駆け寄ってきて、あっという間に苗木を取り囲む。そのみっつの頭をリズムよくポンポンと撫でて、ただいまと笑った。
 苗木の家は母子家庭で、母親が遅くまで働きに出ているため、苗木が父親代わりをしているらしい。

 冷凍ご飯を解凍して、手際良くボウルで卵をとく。ソーセージとキャベツを加えて、チャーハンを作ってくれた。
 あとは昨日の残りだというコロッケが食卓に並ぶ。

「こんなのしかねぇけど、直江も食えよ。腹減ってるだろ」
「ありがとう」
「もうお腹ペコペコだよー」
「あっ、おまえら! いただきますしてからだぞ」

 注意された弟たちは、ぶうと頬を膨らませつつも、みんなで手を合わせてから箸を取った。
 見た目こそチャラついてはいるけど、しっかりしている。
 感心していると、「冷めねぇうちに早く食えよ」と促された。
 頷いて口にしたチャーハンは、温かくて優しい味がした。