消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

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「なんだよー、せっかく名披露目(なびろめ)すんのに親来ねーの?」

 週明けの月曜日。帰りの支度をする僕の前で、苗木が驚いた声をあげた。
 まず、その言葉にぴくりと反応したのだけど、いつもの調子だとスルーするつもりだった。

「あら、梵くんたら。いつの間に結婚することになったのかしら」

 わざとらしく綺原さんがツッコむと、「ええっ、直江結婚すんのか⁈」と想像通りの返しが来る。この二人のペースにはついて行けない。

「……苗木が言いたいのは、お披露目だろ。名披露目は結婚式の引き出物の一種だよ」
「ああ、そうか。わりぃな」

 雑談を交えながら廊下へ出て、中央玄関でじゃあと手を振り家路に着く。駅までの道のりで両サイドに違和感を覚えながら。
 自転車を押しながら隣に並ぶ苗木と、当たり前のような顔をして付いてくる綺原さん。

「あのさ、二人とも……どうしたの? 帰りこっちじゃないよね?」

 今日はこっちに用があるから気にするなと言って、彼らは同じ電車へ乗車した。僕の家の最寄り駅で降車すると、影のようにくっついて来る。
 不自然と言うか、あきらかに付いてきているのだ。

「……絶対、尾行してるよね? なに、ほんとどうしたの?」

 自宅前まで来たところで、もう一度尋ねた。動揺する苗木をよそに、綺原さんが僕らの手を引き、隣に構える歯科医院のドアを開ける。

「えっ、ちょっと綺原さん?」

 受付を通り過ぎて、治療中の診療室へと進む。呼び止められる声にも振り向かないで、ただされるがまま。

「……梵? あなた、何をして……」