「それに、蓬……日南先生には、他に好きな人がいたから。僕のことなんて、これっぽっちも」
言いかけて違和感を覚える。
なんだこれ? まるで僕が恋の相談をしているみたいじゃないか。夢の世界が終わった話をしていただけのはずなのに。
日南先生と、どうこうなりたいとは思ってない。たしかに、蓬と再会出来たことは感無量というか嬉しかったのだけど、いまいち実感が覚束ない。
僕は、日南先生のことが好きなんだろうか?
一瞬音が止んだのを不自然に思われたか、綺原さんが何かを考えるように首を捻る。もう一度、反対へ傾けて小さな息を吐いた。
「嘘が下手ね。動揺が音に出てる」
「嘘って、なに! それに集中出来ないのは、綺原さんが気の散ること言うから」
「あら、悪かったわね。当日に影響しないようしっかり気持ちは切り替えて」
ゆめみ祭でピアノの演奏をすることに、快く思っていない教員もいる。
そもそも、日南先生が校長へ掛け合ってくれたと聞いたけど、僕がピアノ経験者だということは誰も知らない。
時間配分の関係で、吹奏楽によるバンドライブのあとにねじ込まれたこと。さらには、生徒会長だけ特別扱いとみなされるのが一番の要因のようだ。
ステージを成功させなければ、評価だけでなく進路へも影響しかねないだろう。ピアノの道は完全に絶たれてしまう。
──直江、国立を受けないのか。ああ、そうか。実家が歯科なら、歯科医師一択か。
二年の時、担任から言われた言葉が脳裏を掠めた。
「もちろん、邪心は持ち込まないようにするよ。このチャンスを逃したら、もうあとがないから」
「そうね。せっかく時が戻ったのだから、今だから出来る選択をしていくべきね。お互いに」
綺原さんが隣にいてくれて良かった。そうでなければ、こうまでして練習するに至らなかったかもしれない。
自分が生きている今は間違いじゃないのだと、初めて信じられた気がした。
言いかけて違和感を覚える。
なんだこれ? まるで僕が恋の相談をしているみたいじゃないか。夢の世界が終わった話をしていただけのはずなのに。
日南先生と、どうこうなりたいとは思ってない。たしかに、蓬と再会出来たことは感無量というか嬉しかったのだけど、いまいち実感が覚束ない。
僕は、日南先生のことが好きなんだろうか?
一瞬音が止んだのを不自然に思われたか、綺原さんが何かを考えるように首を捻る。もう一度、反対へ傾けて小さな息を吐いた。
「嘘が下手ね。動揺が音に出てる」
「嘘って、なに! それに集中出来ないのは、綺原さんが気の散ること言うから」
「あら、悪かったわね。当日に影響しないようしっかり気持ちは切り替えて」
ゆめみ祭でピアノの演奏をすることに、快く思っていない教員もいる。
そもそも、日南先生が校長へ掛け合ってくれたと聞いたけど、僕がピアノ経験者だということは誰も知らない。
時間配分の関係で、吹奏楽によるバンドライブのあとにねじ込まれたこと。さらには、生徒会長だけ特別扱いとみなされるのが一番の要因のようだ。
ステージを成功させなければ、評価だけでなく進路へも影響しかねないだろう。ピアノの道は完全に絶たれてしまう。
──直江、国立を受けないのか。ああ、そうか。実家が歯科なら、歯科医師一択か。
二年の時、担任から言われた言葉が脳裏を掠めた。
「もちろん、邪心は持ち込まないようにするよ。このチャンスを逃したら、もうあとがないから」
「そうね。せっかく時が戻ったのだから、今だから出来る選択をしていくべきね。お互いに」
綺原さんが隣にいてくれて良かった。そうでなければ、こうまでして練習するに至らなかったかもしれない。
自分が生きている今は間違いじゃないのだと、初めて信じられた気がした。



