真正面からじりりとした視線を受けながら、ごくりと喉を鳴らす。行き場のない手は、正座した足の上でこぶしを握っている。
「ほんとにあなたって人は、人の忠告を聞かない人ね」
パタンと閉じた本をガラステーブルの上に伏せて、綺原さんが長い前髪を耳にかけた。ふと触れ合った瞳から視線を外すと、僕は気まずさを隠せずに頭をかく。
「不倫相手に説教するなんて、いくら夢だと言っても無茶すぎるわ」
「ちゃんと元に戻れたからいいでしょ。それに、夢を壊せって言ったのは綺原さんじゃないか」
「……まあ、丸く収まったならいいんだけど」
視線の位置に困りながら、妙に落ち着かない手を意味もなく動かす。
グラスに注がれたお茶をごくりと飲むと、氷がからんと音を立てて、回った。まるで慌てふためく誰かみたいに。
緊張するなとは、緊張している人間に一番言ってはならない言葉だ。たった今、理解した。
誰にも聞かれないで話をしたい。綺原さんに連れられて来たのは、彼女のアパート。初めて入る女子の部屋は、花畑にでもいるようないい香りがする。
こういった経験がないのだから、不自然になるのは致し方ない。
「ほんとにあなたって人は、人の忠告を聞かない人ね」
パタンと閉じた本をガラステーブルの上に伏せて、綺原さんが長い前髪を耳にかけた。ふと触れ合った瞳から視線を外すと、僕は気まずさを隠せずに頭をかく。
「不倫相手に説教するなんて、いくら夢だと言っても無茶すぎるわ」
「ちゃんと元に戻れたからいいでしょ。それに、夢を壊せって言ったのは綺原さんじゃないか」
「……まあ、丸く収まったならいいんだけど」
視線の位置に困りながら、妙に落ち着かない手を意味もなく動かす。
グラスに注がれたお茶をごくりと飲むと、氷がからんと音を立てて、回った。まるで慌てふためく誰かみたいに。
緊張するなとは、緊張している人間に一番言ってはならない言葉だ。たった今、理解した。
誰にも聞かれないで話をしたい。綺原さんに連れられて来たのは、彼女のアパート。初めて入る女子の部屋は、花畑にでもいるようないい香りがする。
こういった経験がないのだから、不自然になるのは致し方ない。



