消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 どのタイミングで夢の世界へ繋がるのか、最近そんなことを漠然と考えている。授業、部活、登下校の最中、家にひとりでいる時間。

 夢を記録するために書き始めた日記は、気付けばノートの半分に達していた。タイムリープについて、何かヒントになるかもしれないと僕が言い出したことだけど、今のところ進展はない。
 ひとつ言えるのは、全ての日付に蓬が出てくることだけだ。

「やっぱり、蓬が関係してる……?」

 ピアノの前に座りながら「いや、でも」と、独り言をつぶやく。
 綺原さんもタイムリープしているんだ。彼女が見ているのは未来の夢で、蓬の存在を知らない。
 僕は日南先生の死、綺原さんは僕の死がトリガーになって時間が巻き戻されたと考えるのが妥当だろう。

 ピアノの鍵盤に指を置く。そっと目を閉じると、指が勝手に音色を奏でる。暗闇を思いのまま操るように、優しく儚げなメロディがあふれてくる。
 知らない曲を弾いているということは、夢なのだろうか。

 徐々に瞼を持ち上げる隙間から、鮮やかな色の世界が飛び込んで来た。ピンクとブルーのグラデーションがかった空の下で、僕はピアノの演奏をしている。

 そこへ現れた蓬の細長い指が加わって、四本の手が鍵盤の上を流れていく。僕らの奏でる音色は、空に響いて広がっていた。

 映画の場面が切り変わるように、目の前には見慣れない町の景色が映っていた。
 レンガ調の洒落た家から、女の子が飛び出して来て。顔を覆いながら、ひどく慌てた様子の後ろから、「待ちなさい!」と怒鳴るような声が追いかけていく。