消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 他の生徒が六限目の授業を受ける最中(さなか)、屋上へ足を運んだ。保健室の酸素は薄い気がして、息苦しくて仕方なくて。
 空が一番近い場所には先客がいた。一歩ずつ足を進めても、フェンス越しに空を眺める日南先生は、遠い彼方へ意識を飛ばしているのか気付かず。

 ふわふわした茶色の髪と鼻筋の通った横顔が、思い出せない誰かに似ている気がしてならない。
 テレビで見たことのある女優、たまに行くコンビニの店員、または中学時代の先輩だったか頭の中にいる別の誰かなのか。

 隣に立って、ようやく僕を見た。大きな目を丸くして、風に(さら)われていく髪を耳に掛けながらふふっと小さく笑って。

「直江くん、授業はどうしたの? 生徒会長がおサボり?」

 太陽に照らされて、きらきらした目をしている。

「先生こそ、受け持ちない時間だからって屋上で暇つぶしですか?」
「息苦しくなるとね、たまに来るの。あっ、校長先生には内緒ね」

 人差し指を唇に当てて口角をキュッと上げるから、えくぼが出来た。

「あの人お説教長いから」
「確かに。この前、校長に捕まって一時間近く帰って来なかったですよ、苗木」
「苗木くん、何したの?」
「服装の乱れが要因だったみたいですけど」

 子どものような無邪気な笑みに、少しだけ親近感が湧いた。彼女との空気は、それほど窮屈(きゅうくつ)じゃない。むしろ心地良い。
 だから、風に乗せてつい余計なことを話したくなった。