保健室に養護教諭の姿はなく、ドアに『職員室にいます』の札がかけられていた。少し引くと鍵は開いているようで、促されて中へ入ると彼女はピシャリとドアを閉めた。
詰め寄るように前へ立つと、グイッと僕の顔を覗き込む。水晶玉みたいな透き通った瞳は、心の中を吸い取るようにじっと見つめて。異様に距離が近くて、目を合わせていられなかった。
「ねえ、さっきの授業何したか覚えてる?」
「ええっ? ええっと……ゆめみ祭の、話し合い?」
黒板に書いてあった内容から、きっとそうだろう。目の前に視線を戻すと、彼女から呆れの溜息が放たれる。
「私は記憶があるのか聞いてるの。梵くん、さっきまで夢の中にいたでしょ」
「どうして……分かるの?」
「だって黒板の前に立ってる時、目に光がなかったから。魂が抜けたような、なんて言うか〝抜け殻〟みたいだった」
「……抜け殻?」
夢を見ている間に、現実で自分がどんな行動を取っていたのか記憶はなかった。
綺原さんの話によると、僕は普通に歩いて教壇の前に立ち、ゆめみ祭の話し合いをして席に戻ったらしい。学園祭実行委員が欠席だったため、書記まで一人でやっていたと言うから驚きだ。
脳と体の意識が別のところにあって、いずれ幻想から戻れなくなる。この前話していたことに現実味が帯びてきたからか、やたらと体を心配する綺原さんに押され、少しだけ保健室で休むことになった。
オレンジのカーテンから出ようとする背中に、そっと向けて。
「……綺原さんの言う通り、関わらなければよかった」
「なにが?」
「……夢だよ。余計なことして、傷付けたかもしれない」
布を掴む手にぐっと力が入る。どうしたらいいのか分からなくて、気持ちをぶつける場所もない。
「夢を終わらせられるなら、そうした方がいいんじゃないかしら。その人のためにも、あなたのためにもね」
振り向きもしないまま、綺原さんは保健室を出て行った。
夢が終われば、蓬と会えなくなる。僕にその選択が出来るのか。いや、無理だろう。そんな勇気もなければ、もとより夢世界の壊し方など知らない。
薄布の中で、何度もため息がこぼれるのはそのせいだろう。しばらく横になって、何もない空間を見つめていた。無心に、意味もなく。
詰め寄るように前へ立つと、グイッと僕の顔を覗き込む。水晶玉みたいな透き通った瞳は、心の中を吸い取るようにじっと見つめて。異様に距離が近くて、目を合わせていられなかった。
「ねえ、さっきの授業何したか覚えてる?」
「ええっ? ええっと……ゆめみ祭の、話し合い?」
黒板に書いてあった内容から、きっとそうだろう。目の前に視線を戻すと、彼女から呆れの溜息が放たれる。
「私は記憶があるのか聞いてるの。梵くん、さっきまで夢の中にいたでしょ」
「どうして……分かるの?」
「だって黒板の前に立ってる時、目に光がなかったから。魂が抜けたような、なんて言うか〝抜け殻〟みたいだった」
「……抜け殻?」
夢を見ている間に、現実で自分がどんな行動を取っていたのか記憶はなかった。
綺原さんの話によると、僕は普通に歩いて教壇の前に立ち、ゆめみ祭の話し合いをして席に戻ったらしい。学園祭実行委員が欠席だったため、書記まで一人でやっていたと言うから驚きだ。
脳と体の意識が別のところにあって、いずれ幻想から戻れなくなる。この前話していたことに現実味が帯びてきたからか、やたらと体を心配する綺原さんに押され、少しだけ保健室で休むことになった。
オレンジのカーテンから出ようとする背中に、そっと向けて。
「……綺原さんの言う通り、関わらなければよかった」
「なにが?」
「……夢だよ。余計なことして、傷付けたかもしれない」
布を掴む手にぐっと力が入る。どうしたらいいのか分からなくて、気持ちをぶつける場所もない。
「夢を終わらせられるなら、そうした方がいいんじゃないかしら。その人のためにも、あなたのためにもね」
振り向きもしないまま、綺原さんは保健室を出て行った。
夢が終われば、蓬と会えなくなる。僕にその選択が出来るのか。いや、無理だろう。そんな勇気もなければ、もとより夢世界の壊し方など知らない。
薄布の中で、何度もため息がこぼれるのはそのせいだろう。しばらく横になって、何もない空間を見つめていた。無心に、意味もなく。



