消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 目の前が水彩絵の具でぼやかすように滲み出し、様々な色が混ざり合う。徐々に視覚は鮮明になって、背景はくっきりとなる。

「それで、綺原は何の仮装するんだ? 魔女か、吸血鬼か?」
「どうしてモンスターばかりなの? ハロウィンパーティーみたいじゃない」
「黒マント絶対似合うだろ」
「じゃあ、苗木はスケルトンってとこかしら」
「おお、透明人間か? なんかかっこいいな! わくわくして来たぜ」
「……無知って幸せね」

 いつもの綺原さんと苗木の掛け合いが耳を通過する。現実世界の教室へ意識が戻って来たのか。
 黒板に並ぶ文字は、僕が書いたものだろうか。筆跡は明らかに自分のものだが、どれも記憶にない。

 意味もなく指を握ってから開いてみる。何度か繰り返すけど、手の震えは止まらず。指先には白いチョークの粉が付いていた。やはり身に覚えがない。
 ふいに手を覆う優しい感触に襲われて顔を上げた。

「梵くん、寒いの? 手が震えてる」

 綺原さんの言葉に、隣の苗木が「大丈夫か?」と眉を潜める。

「熱があるかもしれない。保健室に行った方がいいわ」
「いや、僕は平気……」
「いいから。黙って来て」

 半ば強引に連れ出されて、彼女の後を追い掛けた。繋がれたままの右手からは、柔らかな感触が広がっている。想像以上に小さな手で、僕が力を入れたら壊れてしまいそうだ。

「綺原さん、あの、ちゃんと行くから手……」

 言いかけたところで、振り払うようにパッと離された手。告白してないのに、なんだか振られた気分だ。
 思わず苦笑するけど、前を向いたままの彼女の耳が真っ赤になっているのを知って、僕も少しばかり気恥ずかしくなった。