消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 それから度々、日南先生は屋上へやって来ては、僕の右腕を掴んだ。もちろん、フェンスに腰掛ける僕が落ちないようにするため。

「どうして先生は、いつも屋上(ここ)に来るんですか?」

 自由な足がゆらゆらと動く。少しでもバランスを崩せば、命綱のない僕は約二十メートル下の地面に叩き付けられて仏となるだろう。
 足がつかないジェットコースターと同じで、緊張しても怖いと思ったことは一度もなかった。
 生きることに、それほど執着がなかったのかもしれない。

「ふらっと消えちゃいそうだから。この手を掴んでないと、奪われちゃうでしょ? この綺麗な青空に」

 身投げしないか見張っていると、はっきり言えばいいじゃないか。

「先生ね、もうすぐ死んじゃうの。だから、直江くんと……みんなと、出来るだけ一緒にいたいのよ」
「……死ぬ?」
「上手く言えないけど、最近持病……みたいなものが悪化しててね。あっ、このことは誰にも内緒よ。直江くんと先生だけの、ふたりだけの秘密ね」

 人差し指を唇の前で立てて、日南先生は微笑んでいた。
 向日葵のように明るい表情をしていたからなのか、彼女と死を結びつけることが、どうしても出来なかった。