あきれたようなため息をこぼして、綺原さんは僕を見た。それも、少しムッとしたように。

「梵くんには、さっきの話が聞こえてなかったみたいね。今にでも抹消したいバッドエンドの映画を、シナリオにして手元に置いておけってことで合ってる?」
「ええっと……ごめん、無理にとは言わないけど」

 すんとした顔をしているけど、声色は怒っている。地雷を踏んでしまったらしい。
 波風を立てないように、と結局引いてしまう。僕の人生なんて、いつもこんな感じだ。

「あなたって、ほんとお人好し。あまり自分を抑え込んでばかりいると、そのうち心が悲鳴をあげるわよ」

 ツンとした態度で、綺原さんは保健室を出て行った。
 分かりづらいけど、今のは日記を付けてくれると受け取っていいのだろうか?

 クールな印象が植え付けられている綺原さんだけど、どこか柔らかな声は、優しいピアノの音色を聴いているみたいだった。