直江梵の名が読み上げられて、反射的に小さく返事をする。蓬以外の人間からも、僕という存在は認識されているのか。
不意打ち過ぎて、少し取り乱してしまった。机にぶつけた肘が、心なしかジンと痛む気がする。
さすりながら、斜め前に座る彼女へ視線を飛ばした。相変わらず、鼻筋の通った綺麗な横顔だ。
大きな目の下瞼が持ち上げられ、恍惚とした表情が色気を感じさせている。
酔いしれるような眼差しが向かうのは、教壇の前に立つ担任と思われる男だ。たしか生徒から、皆川先生と呼ばれていた。
蓬は、あの皆川という教師に恋をしているのか? 思ったとたんに、もやっとした黒い煙が胸の中に現れて、僕は意識を失った。
「……くん」
頭の中で何か聞こえる。
「……梵くん」
誰かが僕の名を呼んでいる。
早く目を開けなければ、ふわふわとした微睡の渦に消えてしまいそうだ。
「梵くん、起きて!」
勢いよくハッと目を見開くと、白い天井を背景に、ぼんやりとした人の輪郭が覗いていた。視点が定まって来て、目の前にいるのが綺原さんだと認識出来た。
周りは薄いオレンジのロールカーテンで囲われている。どうやら、保健室のベッドで寝ていたようだ。
胸が痛苦しい。排気ガスを吸ったように肺が重く感じる。
「大丈夫? 挨拶活動中に突然倒れたみたい。熱はないようだけど、ひどくうなされてたわ」
「うなされる?」
「変な夢でも見てるのかと思って、強制的に起こしたの」
「夢……」
また彼女の夢を見ていた。
でも、頭の中だけで繰り広げられている幻想とは違う。
実際に、僕は蓬と会っている。夢という異空間に別の現実が存在するんだ。
不意打ち過ぎて、少し取り乱してしまった。机にぶつけた肘が、心なしかジンと痛む気がする。
さすりながら、斜め前に座る彼女へ視線を飛ばした。相変わらず、鼻筋の通った綺麗な横顔だ。
大きな目の下瞼が持ち上げられ、恍惚とした表情が色気を感じさせている。
酔いしれるような眼差しが向かうのは、教壇の前に立つ担任と思われる男だ。たしか生徒から、皆川先生と呼ばれていた。
蓬は、あの皆川という教師に恋をしているのか? 思ったとたんに、もやっとした黒い煙が胸の中に現れて、僕は意識を失った。
「……くん」
頭の中で何か聞こえる。
「……梵くん」
誰かが僕の名を呼んでいる。
早く目を開けなければ、ふわふわとした微睡の渦に消えてしまいそうだ。
「梵くん、起きて!」
勢いよくハッと目を見開くと、白い天井を背景に、ぼんやりとした人の輪郭が覗いていた。視点が定まって来て、目の前にいるのが綺原さんだと認識出来た。
周りは薄いオレンジのロールカーテンで囲われている。どうやら、保健室のベッドで寝ていたようだ。
胸が痛苦しい。排気ガスを吸ったように肺が重く感じる。
「大丈夫? 挨拶活動中に突然倒れたみたい。熱はないようだけど、ひどくうなされてたわ」
「うなされる?」
「変な夢でも見てるのかと思って、強制的に起こしたの」
「夢……」
また彼女の夢を見ていた。
でも、頭の中だけで繰り広げられている幻想とは違う。
実際に、僕は蓬と会っている。夢という異空間に別の現実が存在するんだ。



