昨年赴任して来たはずの日南菫は、体育館階段の壁画に思い入れがあると言った。一度目は持病で死んでしまうと告げたのに、今は否定している。
八月二十一日。日南菫の葬儀が行われた夜から時間は巻き戻り、同じ過去が繰り返されている。変わった夢を見るようになったのも、その日からだ。
不思議な現象と彼女は、何か関係があるのかもしれない。
「どうと聞かれると、ちゃんと答えられる気がしないなぁ。しいて言うなら、直江くんが死んでしまうのが怖い……かな」
口調は穏やかなのに、なんて寂しそうな表情だろう。まるで、本当にいなくなることを知っている目をしている。
日南先生の死を目の当たりにした僕みたいに。
「人間はいつか死にますよ。みんな、死ぬ」
「そうだけど」
「でも、まだ死なないで下さい」
「わたし?」
「一応、心配してるんですよ。先生のこと」
戸惑った表情で、日南先生は僕を見た。
無理もない。釘を刺したのは、これで二度目だ。それほど親しくもない生徒ならば、気味が悪くもなるだろう。
「そういえば直江くん、これから生徒会よね。早く戻りましょう?」
「すぐ行きます。でも、これから試したいことがあるので、少し一人にしてもらえますか」
「でも」
「何が先生をそんなに不安とさせるのか分からないけど、絶対死なないから大丈夫ですよ」
「絶対ほど信用ならない言葉はないよ」
疑っていると言いたげに、また風にさらわれそうな髪を耳にかけた。
青空が背景となって、一枚の写真みたいだ。
なんだろう。日南先生って、なんと言うか、こんなに綺麗な人だったのか。
「……分かったわ」
引かない僕に負けたと言うような顔をして、ちらりと振り返りながら屋上を出て行った。
先生の姿が見えなくなったのを確認して、冷静に周りを見渡す。
カシャンカシャンと音を立てながら、僕は幅の狭い鉄格子に両足を乗せた。夢の中で蓬がしていたように。
八月二十一日。日南菫の葬儀が行われた夜から時間は巻き戻り、同じ過去が繰り返されている。変わった夢を見るようになったのも、その日からだ。
不思議な現象と彼女は、何か関係があるのかもしれない。
「どうと聞かれると、ちゃんと答えられる気がしないなぁ。しいて言うなら、直江くんが死んでしまうのが怖い……かな」
口調は穏やかなのに、なんて寂しそうな表情だろう。まるで、本当にいなくなることを知っている目をしている。
日南先生の死を目の当たりにした僕みたいに。
「人間はいつか死にますよ。みんな、死ぬ」
「そうだけど」
「でも、まだ死なないで下さい」
「わたし?」
「一応、心配してるんですよ。先生のこと」
戸惑った表情で、日南先生は僕を見た。
無理もない。釘を刺したのは、これで二度目だ。それほど親しくもない生徒ならば、気味が悪くもなるだろう。
「そういえば直江くん、これから生徒会よね。早く戻りましょう?」
「すぐ行きます。でも、これから試したいことがあるので、少し一人にしてもらえますか」
「でも」
「何が先生をそんなに不安とさせるのか分からないけど、絶対死なないから大丈夫ですよ」
「絶対ほど信用ならない言葉はないよ」
疑っていると言いたげに、また風にさらわれそうな髪を耳にかけた。
青空が背景となって、一枚の写真みたいだ。
なんだろう。日南先生って、なんと言うか、こんなに綺麗な人だったのか。
「……分かったわ」
引かない僕に負けたと言うような顔をして、ちらりと振り返りながら屋上を出て行った。
先生の姿が見えなくなったのを確認して、冷静に周りを見渡す。
カシャンカシャンと音を立てながら、僕は幅の狭い鉄格子に両足を乗せた。夢の中で蓬がしていたように。



