消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

「少女漫画の見過ぎだな」
「あら、失礼ね。昨日ドラマで見たのよ」
「それにしても、君とは出会う運命だったなんてくそイタイこと、千円貰ったって誰も言わねぇぞ?」
「じゃあ五千円なら?」
「それは、ちょっと時間くれ」
「あなたって、想像通り単純な男よね」

 前に座る綺原さんと苗木(なえき)が、いつもの調子で言い合っている。気が合うのか合わないのか、ふたりはこうしてよく意見のぶつかり合いをする。

 この会話も、なんとなく覚えがある。
 聞こえない振りをして席を立とうとすると、決まって彼らは振り返るんだ。

「なあ、直江はどう思うよ?」
「ええ、どうって……?」
「初恋って、叶わないモノでしょう? だから、それくらい夢見ようとしてるのに」
「叶うことも……あるだろう!」
「死ぬまでに言われてみたい台詞を馬鹿にしてくるの。苗木って、デリカシーないと思わない?」

 離れかけた椅子に腰を下ろして、苦笑するしかない。
 僕がどっち付かずな態度を取ると知っているのに、今度こそはと彼らは同意を求めてくる。
 一度目はなんと答えたか、忘れてしまった。

「なかなか言えるもんではないけど、世の中にはいるんじゃないかな。七十六億人もいるわけだし」

 答えながら真っ先に思い浮かんだのは、日南先生の言葉だった。
 〝君の生きる時間を私にちょうだい〟という文章も、現実で声にされると相当癖があると思う。

「ほら、(そよぎ)くんは味方してくれるわ」
「なんだよ、直江。珍しく綺原の肩持つのか?」
「うーん、どっちかに肩入れした覚えはないんだけど」
「どうだかなぁ」

 いつもの調子で、僕はそら笑いを浮かべた。こうしたやりとりを、あと何度繰り返したらいいのだろう。
 二人のことは友達として好きだけど、天秤にかけるような時間はなるべく早く過ぎて欲しい。間を取った答えを生み出すのは疲れる。