月曜日の朝。いつもより早く家を出て、校門の前で登校して来る生徒を迎える。
 挨拶向上習慣としての生徒会挨拶活動が、今日から一週間行われるのだ。もちろん、この作業も二度目。

 変わらない挨拶を交わして、見送る。
 こうした同じように感じる毎日でも、時間が戻る前と違う言動をすることによって、些細な変化をもたらしている。

「会長、さっきから手に持ってる棒切れなんですか?」

 不思議そうにしながら、副生徒会長が首を傾げた。

「これから役立つんだ」
「そんな小枝が?」

 例えば、もうしばらくすると、隣に立っている副生徒会長の肩に毛虫が落ちて来る。
 彼女は虫が苦手のため、泣きながらそこら中を走り回って、登校中の生徒と衝突。膝を擦りむく怪我をして、大騒ぎしていた記憶がある。

 木から鳥が飛びたった拍子に、毛虫が落下した。肩に着地するタイミングで、枝でキャッチする。
 こうして、副生徒会長が怪我をするはずだった未来はなくなったというわけだ。

 そのうちに苗木(なえき)が登校して来た。眠そうにあくびをしながら、目を(こす)る仕草まで一度目とそっくり一致している。まるで、映画の映像を繰り返し見ているみたいだ。

「よう、直江。朝っぱらから、お疲れさん」
「おはよう。あのさ、苗木。放課後だけど、今日は早く帰った方がいい」
「なんでだよ? それに、学校来てもう帰りの話か?」
「いいから、出来るだけ早く。絶対その方がいいと思う」

 真顔で言い続ける僕を見て、苗木は小さく(うなず)いた。

「わけ分かんねぇけど、分かったよ」

 首を傾げながら、苗木は校舎へ入って行く。
 よしと心の中でひと息ついて、僕は挨拶活動を再開させた。