消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 綺原さんとは、二年の時にクラスが同じになったことで話すようになった。容姿が整っているため、男子の中ではちょっとした有名人で。

 だからなのか理由は定かでないが、出会った時から女子の中で浮いていた気がする。彼女自身が、一匹狼でいることを好んでいるようにも見えた。

「ねえ、(そよぎ)くんと(すみれ)先生って、どんな関係?」
「どんなって? ただの担任と生徒だよ」
「あら、面白くない答えね」

 意味深な笑みを浮かべた綺原さんが、グッと顔を近付ける。それから、わざとらしく蝶が羽音を鳴らすような声で呟くんだ。

「見ちゃったのよね。梵くんと菫先生が美術室で逢い引きしてるとこ」
「逢い……⁈ いや、それは、ただ単に用事があっただけだから」

 美術室を訪れたのは、過去と未来で一度だけ。
 時間が巻き戻った昨日、日南先生の体調確認をした時だ。後ろ指を刺されるようなやましいことは何もない。

 でも、伏し目がちな表情は変わらずで、僕のポテトをぱくりと頬張った。まるで決定的証拠を掴んでいる探偵みたいな顔をしている。

「そう? とっても親密そうにしてたじゃない。まあ、それは私の夢の話だけど」
「……夢?」
「夢であって夢でない。現実よりも現実な夢」
「どういう意味?」
「さあね。はっきりとした意識の中で見た夢、とでも言っておこうかしら」

 抽象的に繰り広げられる彼女の話は、頭を混乱させた。
〝夢であって夢でない〟というキャッチフレーズのような一文。身に覚えがあり過ぎて、深く突っ込めなかった。

 これ以上は詮索するなとアンテナが張られていたから、どちらにせよ聞けなかったのだけど。
 極め付けは、別れ際の言葉だ。

「また月曜に、ね。直江センセ?」

 先生って、なんだ?
 もしかすると、綺原さんも僕と同じように、不思議な夢を見ているのだろうか。