消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 小学生の頃から、習い事の掛け持ちは当たり前だった。水泳、そろばん、塾にテニス。ピアノと書道は中学に入学してからも、部活や塾と平行して通い続けた。

 だから僕は、公園や誰かの家に上がって友達と遊ぶという経験をしたとこがない。もちろん、高校生になって出かけたこともない。

「部活のない日曜でさえ、お稽古で半日潰れるんでしょ? それって、楽しいのかしら」

 淡々とした口調で話しながら、綺原さんがちらり表情を伺う。

「楽しくないけど、辛くはないよ」

 テストの成績が良かった時、ピアノのコンテストで入賞した時、書道で段が上がる度に父と母は喜んで褒めてくれた。
 その時だけは、自分の存在が認められている気がして嬉しかった。
 友達と遊ぶことを我慢していられた。

「楽しさだけで生きていける人間なんていない。でも、たまには美女と食事も悪くないでしょ?」
「えっ……ああ、そうだね」

 本気か冗談なのか分からない発言に、反応がワンテンポ遅くなる。

「そこは突っ込んでくれないと。私が自意識過剰で嫌な女みたいじゃない」
「そっか……」

 そのあとが、詰まって出てこない。
 そうめんと冷や麦の違いくらいに、女心は見極めが難しい。特に綺原さんのようなクールで何を考えているか読めない女子は、特に分からない。