翌週の日曜日は、心を現すような薄曇りの空になった。
何年か振りに父と食事をすることとなり、言われた通りスーツを着て料亭を訪れた。
門をくぐり石畳を進むと、滝が流れて錦鯉が優雅に泳ぐ様子が見える。敷地に一歩踏み入れただけでまるで別世界のような場所だ。
庭園が見える奥座敷に通され、父の隣に腰を下ろす。この景色を見たことがあるような気がするのは、気のせいなのか。
「珍しいですね。父さんが、僕と食事をしたいだなんて」
「たまにはいいだろう。学生の頃はいろいろあったが、もうお前も立派な大人だ。歯科医師としては、まだこれからだがな」
歯科医師として働く傍ら、休日の数時間だけピアノ教室を開いている。
将来のことで、家族とギクシャクした時期もあったけど、自分の決めた道に後悔はしていない。
「ところで……」
『ところで、この席は誰か来るの?』
脳裏で再生される言葉は、以前にも言ったことがあるように思う。
目の前に用意されている懐石料理の前に、誰かがいる映像が浮かぶけど、ノイズがチラついて顔は見えない。
ちょうどその時、部屋の襖が開いて見知らぬ男性が入って来た。品の良い身なりをした老人と、後ろから控えめに歩いてくる着物姿の女性。
淡い藤色が白い肌を強調させて、儚げに映る。なぜか、初めて会う気がしなかった。
「老舗旅館桜花蘭の大旦那、綺原宗寿朗さんとお孫さんだ。彼とは歯科医師会の会長繋がりで知り合ってね。お孫さんを紹介したいと言われて、食事の席を設けたんだ」
知らされていなかったのは僕だけではなさそうで、目の前に座る女性も驚いたような表情をしていた。
堅苦しい見合いではないから、気楽に過ごしてくれと言われたけど、そうもいかない。
父と大旦那さんは、僕たちの紹介など忘れて、会話を楽しみながら食事を嗜んでいる。
お造り、焼き物、箸休めの帆立と雲丹の茶碗蒸しも、舌が唸るほど美味いはずなのに今は味が分からない。
何年か振りに父と食事をすることとなり、言われた通りスーツを着て料亭を訪れた。
門をくぐり石畳を進むと、滝が流れて錦鯉が優雅に泳ぐ様子が見える。敷地に一歩踏み入れただけでまるで別世界のような場所だ。
庭園が見える奥座敷に通され、父の隣に腰を下ろす。この景色を見たことがあるような気がするのは、気のせいなのか。
「珍しいですね。父さんが、僕と食事をしたいだなんて」
「たまにはいいだろう。学生の頃はいろいろあったが、もうお前も立派な大人だ。歯科医師としては、まだこれからだがな」
歯科医師として働く傍ら、休日の数時間だけピアノ教室を開いている。
将来のことで、家族とギクシャクした時期もあったけど、自分の決めた道に後悔はしていない。
「ところで……」
『ところで、この席は誰か来るの?』
脳裏で再生される言葉は、以前にも言ったことがあるように思う。
目の前に用意されている懐石料理の前に、誰かがいる映像が浮かぶけど、ノイズがチラついて顔は見えない。
ちょうどその時、部屋の襖が開いて見知らぬ男性が入って来た。品の良い身なりをした老人と、後ろから控えめに歩いてくる着物姿の女性。
淡い藤色が白い肌を強調させて、儚げに映る。なぜか、初めて会う気がしなかった。
「老舗旅館桜花蘭の大旦那、綺原宗寿朗さんとお孫さんだ。彼とは歯科医師会の会長繋がりで知り合ってね。お孫さんを紹介したいと言われて、食事の席を設けたんだ」
知らされていなかったのは僕だけではなさそうで、目の前に座る女性も驚いたような表情をしていた。
堅苦しい見合いではないから、気楽に過ごしてくれと言われたけど、そうもいかない。
父と大旦那さんは、僕たちの紹介など忘れて、会話を楽しみながら食事を嗜んでいる。
お造り、焼き物、箸休めの帆立と雲丹の茶碗蒸しも、舌が唸るほど美味いはずなのに今は味が分からない。



