晴れた空の日。本屋の前を歩いていて、何かに惹きつけられるようにある本を手にした。
 淡い紫とブルーの表紙で、『シンクロニシティ』と題された本。どこかで読んだことがある気がして、なぜか懐かしさが込み上げてくる。
 まだ発売されたばかりの本を昔に読んでいるはずがないと思いながらも、気になった僕はそれを購入して帰った。

 帰宅してすぐ、クローゼットの奥を漁る。使わなくなった手帳や賞状の下から、小さな茶封筒が出てきた。
 よく覚えていないけど、高校生の時に書いていた僕の日記。それから、もう一冊。
 誰が書いたものか分からないけど、捨てられずに保管していたものだ。
 自分の日記を開き、流すように文字を追う。

「……やっぱり、あった」

 今から八年も前に、僕はシンクロニシティを読んでいた。
 そのときスマホが震えて、電話を受けた。向こう側から騒がしい音が聞こえて、さらに苗木の地鳴りのような声が上乗せする。

「おーい、直江! 聞こえるかー? おーい!」
「聞こえてるから、もうちょっとボリュームさげて。うるさいよ」
「悪りぃ悪りぃ。すげぇタイミングで飛行機飛んでってさ。今度いつ暇? 直接話したいこと出来たから、飲みに行こうぜ」
「そうだなぁ。じゃあ……」

 苗木とは、今も連絡を取り合っている。文字を打つのが面倒だと言って、どうでもいいことでも電話をかけてくるから勘弁してほしい。
 この間は、深夜にも関わらず一時間以上も拘束された。おかげで、翌朝は腹筋が筋肉痛になってしまった。

 電話を終えて、二冊の日記を机の本棚へと入れる。背表紙をなぞりながら、ふと考える。
 いつも苗木と言い合いをして、夜の教室へ忍び込んで、僕のそばで花笑んでくれた。

 ──顔の見えないあの子は、誰だった?