消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

「ねえ、お昼一緒に食べない?」

 道着から制服へ着替えると同時に、綺原さんが声を掛けて来た。
 土曜日の部活は十二時で終わる。普通でいけば、このあとは自由というわけだから僕を誘ったのだろう。

 実は前にも一度、彼女に断りを入れている。でも、綺原さんは知らない。時間が巻き戻る前の話だからだ。

「悪いけど、これから塾なんだ」
「何時から?」
「一時から、だけど」
「あと一時間弱あるわね。そこのモコバーガーなんてどう?」
「ええっと……、少しなら」
「じゃあ決まりね」

 白い歯を見せて満足そうに笑う綺原さんに、少しばかり動揺していた。同じように断ったはずなのに、一度目とは違う反応が返って来たからだ。

 弓道場から少し歩いたところに、モコバーガーはある。高校が近いこともあり、部活帰りの生徒が利用しているのをよく遠目に見ていた。
 学校と部活の行き来でしか通らない僕にとって、帰り道に誰かと店に入るなど初めての体験だ。
 だから、自分の前で女子がバーガーを頬張っていることは、非日常の何ものでもない。

「ねえ、さっきから、ちょっと見過ぎじゃない? さすがに食べ辛い」
「ああ、ごめん。つい物珍しくて」
「それって、私がファストフード食べてることが?」
「そうじゃなくて。こうして外で誰かとご飯を食べるって、なかなかしないから」