昼食の時間になって、みんなが机の移動を始める。弁当袋を手にして教室を出たところで、後ろからグッと腕を引かれた。
心臓を跳ね上げると、真剣な顔をした苗木が立っていて、その気迫に怯みそうになる。
「ちょっと、いいか?」
いつものおどけた彼ではなく、何かを決意した顔だった。
校庭の木陰へ連れて行かれて、彼は何度も深呼吸をした。緊張感が痛いほど伝わってきて、私の心臓にも伝染する。
「綺原って、付き合ってる奴いなかったよな」
「そうね。苗木も、でしょう」
「ああ……俺は、ずっと。ずっと前から好きな子がいる。態度は冷たいし、バカにばっかしてくるけど……一緒にいるだけで、笑顔になれる。全然脈ないって分かってるけど、どうしても伝えておきたい」
初めて見る強い眼差しに、心が波打つ。あなたを好きになれたら、幸せだったのに。
「……好きだ」
どくん、と胸が締め付けられる。
こんなふうに告白されて、心が躍らない人などいない。
「ずっと前から、俺は……」
その時、ものすごい風が吹いた。木がざわざわと揺れながら、葉が天へ上っていく。
暴風域に入ったのかしら。
飛ばされそうになるスカートを押さえながら、視線を戻す。風を避けるように下げていた苗木が、頭を上げた。
ゆったりと開く瞼。光を失っていくみたいに、瞳から輝きが薄れていく。それは電池切れのライトと似ている気がする。
「……苗木? 大丈夫?」
きらきらしていた光が、完全に消滅した。
「あー、はい。なんともないですけど、あの、俺ら何か話してましたっけ?」
頭をぽりぽりと掻きながら、照れ臭そうな顔をする。でもそれは、さっきまでの緊張感とは違うもの。
「いいえ、……何も」
「なんか風すごいから、とりあえず教室入った方がいいっすよ」
目の前にいる彼はもう、私の知っている苗木ではなかった。言葉を交わしたことのない他人のように、私の存在を忘れてしまった。
──向こうの自分が、目を覚まそうとしているのかもしれない。
心臓を跳ね上げると、真剣な顔をした苗木が立っていて、その気迫に怯みそうになる。
「ちょっと、いいか?」
いつものおどけた彼ではなく、何かを決意した顔だった。
校庭の木陰へ連れて行かれて、彼は何度も深呼吸をした。緊張感が痛いほど伝わってきて、私の心臓にも伝染する。
「綺原って、付き合ってる奴いなかったよな」
「そうね。苗木も、でしょう」
「ああ……俺は、ずっと。ずっと前から好きな子がいる。態度は冷たいし、バカにばっかしてくるけど……一緒にいるだけで、笑顔になれる。全然脈ないって分かってるけど、どうしても伝えておきたい」
初めて見る強い眼差しに、心が波打つ。あなたを好きになれたら、幸せだったのに。
「……好きだ」
どくん、と胸が締め付けられる。
こんなふうに告白されて、心が躍らない人などいない。
「ずっと前から、俺は……」
その時、ものすごい風が吹いた。木がざわざわと揺れながら、葉が天へ上っていく。
暴風域に入ったのかしら。
飛ばされそうになるスカートを押さえながら、視線を戻す。風を避けるように下げていた苗木が、頭を上げた。
ゆったりと開く瞼。光を失っていくみたいに、瞳から輝きが薄れていく。それは電池切れのライトと似ている気がする。
「……苗木? 大丈夫?」
きらきらしていた光が、完全に消滅した。
「あー、はい。なんともないですけど、あの、俺ら何か話してましたっけ?」
頭をぽりぽりと掻きながら、照れ臭そうな顔をする。でもそれは、さっきまでの緊張感とは違うもの。
「いいえ、……何も」
「なんか風すごいから、とりあえず教室入った方がいいっすよ」
目の前にいる彼はもう、私の知っている苗木ではなかった。言葉を交わしたことのない他人のように、私の存在を忘れてしまった。
──向こうの自分が、目を覚まそうとしているのかもしれない。



