消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 終わりの日に見ていたような薄雲が広がる八月十八日。日南菫の命日と言われる日、梵くんに連れられて彼女の家を訪れた。
 人の死を防げるのなら、もちろん協力したいとは思うけれど、正直複雑でもある。
 部屋で二人きりになった時、居心地が悪くて肺が重く感じた。

 駅に繋がる階段の下。力無い彼を抱きしめながら泣き叫ぶ彼女の姿が、今でも鮮明に思い出される。すぐ近くに婚約者である私がいたのに、最後に彼の温もりを感じていたのはこの人だった。

 それに、彼の別の夢に現れて、この人はおかしな行動を取っている。本当に彼女はこの世界に存在する日南菫なのか、確かめなければならない。

 本棚から取り出したスケッチブックを、日南菫が机に並べていく。家へ押しかける口実に、いくつか絵の相談をしたいと言っていたからだろう。
 何を質問するか考えて来たことさえ、一気に頭から消え去ってしまったけれど。

「さて、本題に入りますか! 質問どうぞ?」
「あの、すみません。忘れてしまって」
「じゃあ私から聞いてもいい?」
「菫先生が、私に?」

 屈託(くったく)のない笑顔。憎みきれない愛嬌を振りまいている。

「綺原さんって、どうして美術の授業を選択したの?」
「それは……」
「絵、そんなに好きじゃないでしょ」

 勘づかれていた。何も返せないでいると、もしかして……と眉が動く。

「私のこと監視してたの?」
「監視だなんて……!」

 言い掛けた言葉を、人差し指で(さまた)げられた。取り乱すなんて、あなたらしくないと言うように。