消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 あれから、夢についてや金宮健のことを調べてみたけど、詳しいことは何も分からなかった。
 この地球上には幾つもの空間が存在していて、意識を飛ばすことで夢と現実を脳が区別している。
 夢の世界から目覚めたとき、元の世界に意識が戻るかは保証出来ない。そう金宮健は言っていた。
 戻れたところで、現実は悲惨。だったら、そのまま意識が帰らなくてもいい。

 歩道を歩きながら、強い日差しを帽子で遮る。小走りで図書館へ入ると、エレベーターで待ち合わせの二階へ向かった。
 夏休み中に、梵くんが初めて連絡をよこしたのが日南菫のためだなんて、しゃくに触る。

 ひと通り話を聞いて、私たちは図書館を出た。
 また変な夢を見たという彼に、『シンクロニシティ』の本を貸した。

 ──バグが起こる場合、外部からのアクセスで意識が二重になっている可能性がある。

 もしかしたら、未来の日南菫が夢に侵入しているのかしら。まさかね。

「今日はありがとう。何かあったら、また連絡するね」
「……わかったわ」

 じゃあと手を振って、図書館の前で別れようとする梵くんの服を掴んだ。
 なに、と首を傾げる彼。自分でも、理解できない行動をしている。

「あ、あの、特に用事がなくても、暇だし連絡してくれていいから」

 上から目線で、嫌な女。
 そんなことを考えていると、少し驚いた顔をしていた梵くんが、にこりと白い歯を見せた。

「うん、綺原さんも遠慮なくしてよ」

 この優しい眼差しを、ずっと近くで感じていられたらいいのに。