消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

「怖いってより……やらないとって感じだったかな。僕が目を覚さないと、何も終わらないし始まらない気がしたんだ。今思い返しても、おかしな話だけど」

 耳の後ろを触って、梵くんはハハッと笑って見せた。
 初恋の人と会えなくなると知りながら、自分の感情より相手の未来を優先させた。つらい思いをしたでしょうに。

「いつか私も、終わらせられるかしら」
「……それって、未来の夢のこと?」

 未来の夢。それは、私にとって現実であり過去でもある。

「ええ、悪夢のようなね。でも少し、怖い。あなたには、あんな偉そうなこと言っておいてね」

 手足が小刻みに震え出す。
 目が覚めたら、もう二度と会えない。
 手の温もりが重なって、骨張った指が優しく私を包み込む。

「もしも何かあった時は、僕の名前呼んでよ」
「えっ?」
「前、悪夢から連れ出してくれたでしょ? だから今度は、僕が綺原さんを引き戻すから。ほら、行こう」


 一歩前を歩く彼。周りから見えないように、繋いだ手は着物の袖で隠している。
 緊張を和ませるためにしたこと。でも、その気遣いが逆に胸を締め付ける。
 お願いだから、優しくしないで。余計に、ここから離れられなくなってしまう。
 デートをしていた昔を思い出して、目頭が熱くなった。

 こんな日が訪れるなど、二十五歳の彼からは想像も出来なかった。