校庭の角にある木の下で昼食を摂る時、ベッドの上で薄い布に包まる時間、ふと考えている。
 ここに、私が求める答えなどあるのかしら。一番望むものは何なのだろうと。
 夢の世界にいる直江梵は、学校の屋上でよく黄昏ている。何かを憂い、消えようとしている。

「直江くん、一緒に飛ぼうか」

 耳に飛び込んで来た声が、心臓を握り潰す。思わず前のめりになる体をぐっと踏み止めた。
 近すぎるくらいの彼らを、影から見ていることしか出来ない。
 私との関係は婚約者からクラスメイトへと離れていくのに、日南菫との心は縮まって行く。

「……梵くんが、タイムリープ?」

 彼はおかしなことを口にした。夢にしては設定が練られていて、この世界を現実だと思い込んでいる。

「初めから違ってたんだ。僕と綺原さんが未来から来ていることに違いないけど、元々の世界は別だってこと」

 詳しく説明してくれるから、頷くしかなかった。これは夢のはずなのに、まるで現実を生きているようで。

「ところで、梵くんはいつからタイムリープしてるの?」
「八月二十一日。日南先生の葬儀から」
「菫先生の……葬儀?」

 彼のいた世界では、日南菫が命を落としていた。
 それが現実なのか、夢なのかは定かではないけど。

「……梵くん。九月十八日は、あなたの葬儀だったの」

 現実の方が夢に思えてきて、本当はあなたの婚約者だったことを伝えられなかった。
 ここを生きる彼は、たしかに存在している。私と夢をみることで、最悪な未来を変えられるかもしれない。