一人暮らしの家へは、知らないうちに帰っていた。考え事をしながらでも体が道を覚えていて、いつの間にか自宅に辿り着いていることは、小学生の頃にもよくあった。
 今回もその感覚と似ていたと言えば、そうなのかもしれない。

 部屋でひとり、今日一日のことを考えてみる。見るもの触れるもの全てがリアル過ぎて、とても夢とは思えない。
 だいたい、このアパートは大学の時に住んでいた場所で、高校生のうちは実家から通っていた。
 地元の女子校を卒業したはずが、彼のいる結芽岬高等学校に入学したことになっている。
 現実で起こっていることなのか、それともまだ夢の中を彷徨(さまよ)っているのか。

 ベッドの上に、見覚えのある本があった。まさかと手に取ってみる。
 ──夢を通じて、誰かと繋がることが出来る。
 信じられないけど、もしかしたら八年前の彼に夢の意識がアクセスしているのかもしれない。

 目が覚めてしまったら、彼がいない現実が待っている。それは心苦しくて、もう少しだけこのままでいたいとも思ったりして。
 枕を濡らしながら眠りに着いたのは、中学生以来だった。

 次の日からも、同じ世界は続いていた。
 夢の世界で高校生になった私は、お弁当を作り制服に(そで)を通して学校へ通う。
 不思議なことに、前からここにいたかのような物が揃っていて、高校生活をするに不便はなかった。

 一週間も経つと、今いる場所が現実のような気がして来て、少し気が楽になった。
 近くには声を掛けてくれる苗木がいて、もう会えるはずのない彼が隣で笑っている。
 だから、時間を巻き戻って別の人生をやり直していると思うようにした。

 もう一度、ちゃんと彼を知ることが出来る機会を与えてもらえたの。
 今度は、心から好きになれるのかもしれない。