彼は、面白いと顔に書くように、少年のあどけなさが垣間(かいま)見える表情で私を見た。

「それって、遠回しに僕が八方美人だって言ってる?」
「否定はしないわ」
「そこしないのか。なんでだろう。みんなから良く思われたいから……かな。なんでそんなこと聞くの? えっと、名前……」
「綺原〰︎〰︎〰︎〰︎よ。なんでかって、それはあなたが一番知ってることでしょ」
「どうゆう意味?」

 ふわっと心地良い風が吹いて、木や鳥たちの声を運んでくる。
 どうして私は、もういなくなってしまった彼の前に高校生として立っているのかしら。

「あなたのことを、もっと知りたいからとでも言っておけば納得してもらえる?」
「……うん、まあ。綺原さんって、不思議な子だね」

 また唇を上げて素直に微笑む。
 知らない。こんな自然に笑いかけてくれる顔は、初めて見た。
 胸がキュッと狭くなって、息が苦しくなるような感覚。学生時代、まわりの女子が話していた恋という単語を思い出した。

 あろうことか、婚約者だった直江梵の高校時代に、ときめいてしまった。