朝の日差しのような心地良さを受けて、目を覚ました。
 体のあちこちに筋肉痛のような痛みを感じる。寝違えたのか、首と背中がひどく疲れている。

 首筋を伸ばしながら、ようやく周りの違和感に気付く。
 目の前には懐かしい黒板、教卓、五月のスケジュールと書かれた表がある。
 学校の教室と思われる場所で、休み時間なのか賑やかな生徒らしき声が聞こえてきた。

 知らない制服を身にまとって、仮装でもしている気分で気恥ずかしくなる。腕を押さえて、体を縮こめた。
 これは……、夢の続き?

「腹でも痛いのか? おい、大丈夫かー? ちゃんと出すもん出せよ?」

 隣でハスキーな男子の声がした。デリカシーのない台詞を、悪びれもなく堂々と浴びせてくる。

「失礼な人ね。あなたの心配なんて要らなくてよ」

 誰かしら、この人。
 プイっと窓の外を向いて、私は息を呑んだ。空のガラスに反射して映る後ろの席に、見覚えのある少年がいたから。

 夢で手を繋いで消えた人。
 今思えば、あの時の肌の感触はとてもリアルで、まだ暖かく心臓が動いていた彼の手のひらに似ていた気がした。

「なおっちー、数学の宿題見せてくれない?」
「おっ、俺にも見せて! 難しくってさ」
「いいよ。でも、関路先生に見つかると厄介だから、気を付けて」
「はーい! ありがとう。さすがクラス委員長のノート! 完璧だね」

 後ろの席に数名の生徒が群がってきた。どうやら、少年はクラス委員長をしているらしい。
 窓ガラスにちらりと視線を送ってみる。
 誰かと話す度にさらさらと動く黒髪、優しそうな瞳に小ぶりの鼻。唇からこぼれる笑みが、どことなく誰かに似ている気がして。