家へ戻りしばらくぼんやりして、ベッドに転がり買ったばかりの本を開いた。最近SNSで話題になっていたから、単なる興味本位だった。
『シンクロニシティ』と題された本には、夢を通じて誰かと繋がることが可能になると書かれている。

 実際に、同じ夢を見たと発言する人たちもいるけど、確かめる手段がない以上なんとでも言える。
 やり方に目を通しながら、胡散臭くなって読むのをやめた。
 月の満ち欠けだとか、よく分からない単語がずらりと並んでいたのと、もうこの世にいない人と夢をみることなど不可能だから。

 窓の外には、不知夜(いざよい)月が浮かんでいる。疲れていたのもあって、いつの間にか本を持ったまま眠りについていた。

 ゆらゆら、ふわふわ。体は自分のままなのに、まるで蝶にでもなったみたいに空を飛んでいる。
 羽根を休めるために降り立ったのは、学校の屋上らしき場所。
 自然のプラネタリウムが頭上に広がるように、青い空から星の代わりに虹色の雨が降り注いでくる。

「…………きれい」

 視線の先にあるフェンスに、見知らぬ制服を着た人がいる。
 不安定な鉄格子に腰を下ろす少年。その鉄の柵を歩く少女は、幻想的な世界に描かれた絵画のように見えた。

 少女が落ちそうになる。助けようとした少年が、なぜか反転した世界の柵の向こう側で落下しそうになっていた。
 その光景を、私は黙って見ている。
 瞬きをした次の瞬間、屋上から落ちて行く彼の手を取って、風を切りながら空を飛んでいた。ゆったりとした宙の波に流れるようにして。

「君の背中には、見えない羽根があるの?」

 ガラス玉のように透き通るような瞳で、少年は問い掛けてくる。
 どうしてか、彼のことを知っている気がしていた。

「そのようね。もしかしたら、あなたを助けるための物だったのかしら」
「ありがとう、〰︎〰︎〰︎〰︎さん」

 どうして、この子が私の名前を……。
 肌が七色に輝いて、星屑のようにキラキラと空を泳いでいく。
 足、体、腕へと星の粉は広がって、私と彼の手は消え去る最後の瞬間まで繋がっていた。