私のことなど、まるで興味がない。女として魅力がないと言われているようで時折寂しくなる。
人のことを言える立場ではないのだけど、この人からは嬉しさとか悲しみの感情を感じられない。
何かに執着することもなく、当たり障りのない会話をして今日も別れるのだろう。
私にとっても、それが一番楽ではあるけれど、この上なく退屈で無駄な時間なのでしょうね。
クラッシックのコンサート会場へ入って、互いに目を合わせることなく座席へ着いた。ペチャクチャと雑談をするような場ではないから、ごく自然な態度なのだろう。
それでも、冷め切った熟年夫婦のような空気が流れていることに、この先も耐えられる気がしない。
いつ話を切り出そうか、開演するまでそればかりを考えていた。
美しいピアノ演奏が終わり、肩を並べてクラッシックホールを出る。会場を出てしまったら、また次の約束をして別れるだけ。
だから今回こそ、何度も心の中で唱えていた文句を言葉にした。
「梵さん、私たち別れましょう」
意を決して口を開いたのに、隣に立つ彼には聞こえていない様子。ただ一点を見つめて動かないでいる。
「あの、梵さん? 聞いてるかしら? 私たち、気持ちもなく……」
まだ話している途中で、彼は私の横を通り過ぎていく。
本当に無神経で自由気ままな人。頭の中で思った時、目に飛び込んで来たのは、展示してあるピアノを前にして立ち尽くす彼の姿だった。
大人の薄汚い世界を知って色をなくしたような瞳は、子どもが欲しかったおもちゃを見つめているように輝いて見える。
「ピアノ、お好きなんですか?」
「ああ、高校生の頃まで弾いていたんだ。途中で辞めたけど、懐かしくて」
「今日プロが演奏していたものと同じモデルですって。展示品だけど、ご自由に触れて下さいと書いてあるわ。この場所は人通りも少ないし、弾いてみたらどうかしら?」
意外だった。私に合わせてクラッシックを聴きに来ただけだと思っていたのに、彼がこんな風に目の色を変えるなんて。
一組のカップルが掃けてから、私たちは一段上がったピアノの前へ立った。
人のことを言える立場ではないのだけど、この人からは嬉しさとか悲しみの感情を感じられない。
何かに執着することもなく、当たり障りのない会話をして今日も別れるのだろう。
私にとっても、それが一番楽ではあるけれど、この上なく退屈で無駄な時間なのでしょうね。
クラッシックのコンサート会場へ入って、互いに目を合わせることなく座席へ着いた。ペチャクチャと雑談をするような場ではないから、ごく自然な態度なのだろう。
それでも、冷め切った熟年夫婦のような空気が流れていることに、この先も耐えられる気がしない。
いつ話を切り出そうか、開演するまでそればかりを考えていた。
美しいピアノ演奏が終わり、肩を並べてクラッシックホールを出る。会場を出てしまったら、また次の約束をして別れるだけ。
だから今回こそ、何度も心の中で唱えていた文句を言葉にした。
「梵さん、私たち別れましょう」
意を決して口を開いたのに、隣に立つ彼には聞こえていない様子。ただ一点を見つめて動かないでいる。
「あの、梵さん? 聞いてるかしら? 私たち、気持ちもなく……」
まだ話している途中で、彼は私の横を通り過ぎていく。
本当に無神経で自由気ままな人。頭の中で思った時、目に飛び込んで来たのは、展示してあるピアノを前にして立ち尽くす彼の姿だった。
大人の薄汚い世界を知って色をなくしたような瞳は、子どもが欲しかったおもちゃを見つめているように輝いて見える。
「ピアノ、お好きなんですか?」
「ああ、高校生の頃まで弾いていたんだ。途中で辞めたけど、懐かしくて」
「今日プロが演奏していたものと同じモデルですって。展示品だけど、ご自由に触れて下さいと書いてあるわ。この場所は人通りも少ないし、弾いてみたらどうかしら?」
意外だった。私に合わせてクラッシックを聴きに来ただけだと思っていたのに、彼がこんな風に目の色を変えるなんて。
一組のカップルが掃けてから、私たちは一段上がったピアノの前へ立った。



