将来、この子はどこかへ嫁いでゆく子という意識があったからだろう。この家にとって、三女は〝要らない子〟なの。
 だから必死にしがみ付こうと茶道、華道、それに加えて琴も習った。名のある老舗旅館の娘だと恥じぬように、手元に置いておきたいと思ってもらえるように。

 けれど、どれだけ日本の和伝統を身に付けようが、彼らの心には響かなかった。
 二十五歳になった今、祖父の知り合いを通して、旅館とは縁のない人と婚約させられたのだから。

 今日は四度目のデートで、夕方から開演するクラッシックのコンサートを鑑賞することになっている。
 はっきり言って気が乗らない。
 毎回のことだけれど、それは彼も同じ気持ちだと思っている。

 そうでなければ、一度も下の名前を呼ばないなんて事にはならないだろうし、何度もデートを重ねないで、今頃は結婚をしているはずだから。
 私たちは、恋愛して婚約したわけではない。知人の紹介といっても、お見合いみたいなもの。

 直感で無理だと思えば断れた話だけれど、他に三度も断っているからそうも出来ない。
 これまでの紹介相手とは違って、〝年齢が離れすぎている〟とか〝話し方が生理的に受け付けない〟〝DNAが拒絶している〟という理由が思い浮かばなかったのが本音でもある。

 コンサートまでに少し時間があるため、私たちは駅近くにある古民家カフェへ入った。大正時代から営む店舗を改装した内装は落ち着いた雰囲気で、畳みの部屋に囲炉裏(いろり)があったりとノスタルジックを感じさせる造りになっている。

 和と洋を取り入れたテイストを売りにしているデザート店で、抹茶のレアチーズケーキや餡子(あんこ)の入ったカスタードシュークリームが人気らしい。

「……おいしい」

 心の声が漏れると、向かい合って座っていた彼が皿を見たまま「そうですね」と、愛想笑いを浮かべた。