教室の中から、生徒たちが顔を覗かせている。興奮気味に指を差している男子、泣いている女子も見えた。
 これは夢なのか? それとも、最後は校舎ごと、あの渦に巻き込まれて死んでしまうのだろうか。

「……梵くん」

 からっぽになった胸の中に、一枚の花びらが落ちてきた。
 木の幹に隠れていたのか、目の前に彼女が立っている。

「もしかして、探してくれてたの?」

 答えるより早く、彼女を抱きしめていた。あふれ出る涙をこらえながら、よかったとだけ繰り返して。

「もう会えないかと思った」

 さらに強く力を込めると、可憐な花の香りがした。部屋を訪れたときと同じ、彼女の匂いだ。

「思い出したんだ。君と初めて会ったときのこと」

 触れている彼女の体が、ノイズ音を出して乱れ始める。日南先生の時と同じだ。
 表面張力で保っていた涙が、彼女の瞳からあふれ落ちる。その姿が、霞んで見えなくなって来た。

「梵くん、ありがとう。後悔しない今を、生きて」

 とっさに掴んだ手は、三次元映像みたいにすり抜けて、消えた。
 何かを思う間もなく、空から放たれた光に包まれて、僕は気を失った。