何事もなく数日が過ぎた。掲示板に貼られた体育祭までの日めくりカレンダーが、死へのカウントダウンに見える。

 昼食の弁当を食べながら、窓の外へ目をやる。視線の先には、今日も一人で木陰に腰を下ろす綺原さんがいる。
 一緒に食べようと僕らが誘っても、決して頷かない。彼女のこだわりなのかは知らないが、女心は未知数だ。

「そういえば、綺原って学校休んだことあったか?」

 綺原さんの席に座る苗木が、校庭を眺めながらつぶやく。
 飲むヨーグルトを片手に、何かを思い出す表情を浮かべている。

「はっきり覚えてないけど、一回か二回はあるんじゃないかな」

 風邪とか、と言いながら記憶を探る。欠席する印象はあまりないけど、急になんの話だろうと首を捻った。
 ハムスターのようにもぐもぐと口を動かしながら、苗木がまたぽつりと言う。

「学級写真にいなくてさ、アレって思ったことがあったんだよ。まあ、休んでたんだろうけど。どうだったっけなぁと思って」
「さすがに、その時はいた気がするけど」
「でも写ってなかったんだよ。あれから、写真失くしちまったからどうしようもねーんだけどさ」

 苗木の話は事実だった。
 家へ帰ってすぐ、写真の入ったファイルを確認した。遠い記憶には、どの場面にも落ち着いた表情をする綺原さんがいたのに、二年の学級写真、弓道の集合写真、体育祭、ゆめみ祭、全てに彼女の姿はなかった。

 一年の頃から、綺原さんの存在を知っていたはずだ。二年で同じクラスになった時、屋上で空を見ていた僕の前に現れて、声を掛けてくれたことがあった。

『みんなに愛想を振りまいて、疲れない?』
『それって、遠回しに僕が八方美人だって言ってる?』
『否定はしないわ』
『そこしないのか。なんでだろう。みんなから良く思われたいから……かな。なんでそんなこと聞くの? えっと、君の名前』
『綺原〰︎〰〰︎〰︎。なんでかって……』

 やっぱり、名前の部分だけ思い出せない。映像が曖昧(あいまい)になって、アルバムから写真が抜かれたように記憶が色褪(いろあ)せていく。