いくら思考を凝らしてみても、答えは出ない。この世界線では、すでに解決された問題なのだろうか。

「そんなに真剣な顔して、やっぱり菫先生のこと好きなのね」
「そういうわけじゃない。日南先生を助けたい気持ちは、綺原さんも一緒だったはずでしょ?」
「……そうね。でも、私は……」

 溜め込むような唇をして、彼女は小さく微笑む。

「どうしたの?」
「菫先生のことキライよ。前から、ずっと大キライ」
「何、言って……」
「あなたが命を落とした原因は、日南菫なのよ」

 袋を握る手に、じわりと汗が滲み出す。
 日南先生の死、ピアノ、未来を変えるために必死で、すっかり忘れていた。
 九月十六日、僕は死ぬ。気付けば、もう二週間ほどしかない。
 日南先生が原因って、何があったと言うんだ?
 それもまた、起こらない世界へ動いているのか。

 タイムリープをしたのは、八月二十一日。これから起こる未来を、僕は知らない。
 少し前まで、どうでもいいと思っていた。生きること死ぬことに執着がなくて、ただ呼吸をしている(うつわ)のようだった。

 だけど、誰かを思う淡い感情を知った。
 何かを共有し合って、協力する仲間を得た。笑い合うこと、闘うこと、必死にもがきながら歩く道は、生きていなければ知り得なかったもの。

 今の僕は、まだ生きていたいと心が震えている。