消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 ……本当に、それでいいのか?
 僕の人生は、選択は間違っていないのだと胸を張って言えるのか。

 ──直江くん、君の生きる時間を私にちょうだい?

 持病でないのだとしたら、日南菫はなぜ死ななければならなかったのだろう。

 部活が終わって、コンビニで買ったオニギリを頬張りながらピアノ講師の家へ向かった。
 もう小学生の頃からの付き合いになる。高一と中二の子どもがいて、分からない宿題を僕が見てあげることもある。

 先生は夕食も一緒にどうかと誘ってくれるけど、毎回断っている。どうしてかと聞かれると、はっきりした理由は説明出来ない。
 ただ、うちと家庭の雰囲気が違いすぎて息が詰まる。

 自宅の玄関を開けた時には、午後九時を過ぎていた。暗い部屋に電気を付けるのも、僕にとっては日常のこと。

 父は開業医の歯科医師、母は歯科衛生士。午後八時半まで診療しているため、まだ仕事をしているのだろう。だから隣の歯科医院は、いつも夜遅くまで電気が付いている。

 午後九時四十分。宿題をしていると、決まった時間に部屋のドアが鳴る。仕事を終えて軽食を済ませた母が覗きに来る時間だ。

「勉強は(はかど)ってる? 眠気覚ましのコーヒー、置いておきますね」
「ありがとう」
(そよぎ)なら、必ず四乃(しの)歯科大に合格出来るわ。期待してるから、頑張って」
「うん……、分かってる」

 ドアが閉まる音を聞いて、ため息がこぼれた。
 さすがに今日は、これ以上無理だと体が(なげ)いている。過去に戻るということは、予想以上に精神を費やすらしい。

 もう休もうと頭では思うのに、湯気の立つコーヒーを目にすると、やらなければならない衝動に駆られるのはなぜなんだ。
 湿ったため息がもうひとつ落ちる。シャープペンを握り直してから、やりがいのない復習は未明まで続いた。