「八月十八日……今日は、私の命日なんだよね? だから来てくれたの?」

『八月十八日、私は死ぬ。夢だと思う?』

 一瞬、脳裏を掠めた映像をかき消す。
 少し間を開けて、小さく頷いた。

「……ありがとう。それから、梵くんが会っていた蓬は私だから」

 どうして今、彼女と同じ呼び方をするんだ。
 小さな鼓動が大きくなって、潤んだ瞳から目が離せなくなる。重なっていた蓬が消えて、吸い込まれるように影が近付く。
 これも夢なのか。体が石のように動かない。

 自転車のライトが差し込んで、とっさに顔を背けた。魔法が解けたみたいに、体が自由になる。
 なんだ、今のは。すごく変な空気だった。

「じゃあ、また休み明けに学校でね」

 何もなかったように、日南先生が鍵を開ける。

「……おやすみなさい」

 軽く頭を下げて、車が見えなくなるのを見送った。
 さっきの光景を思い出して、少しホッとしている。おかしなことにならなくて良かった。それと同時に、疑問が浮かび上がる。
 
 顔が近く瞬間、どうして──、後夜祭の花火に照らされた彼女の横顔を思い出したのだろう。
 
 夜の闇に溶けるように、月が僕をぼんやりと映す。何かを知らしめるように。