授業を終えた夕方、近くのコンビニへ足を運んだ。まだ微睡むような時間ではないのに、頭の中がぼやりしている。
 霧のかかった場所に立っているみたいだ。意識はあるのに、思考が鈍っている。
 日頃の疲れなのか、もしくはあの男が原因か。

 コーヒー牛乳とマンゴーアイスを買って、店の外へ出た。辺りは闇に包まれて、絵本のような藍色の空には星が散らばっている。
 数分で決めたつもりだったが、そんなに長居していたのか?
 疑問が過ぎったけど、構わずそのまま家へ向かった。

 しばらく歩いて違和感を覚える。さっきから、同じ角をぐるぐる回っている気がするのだ。
 家からコンビニまで、徒歩で五分も掛からない。もう十分は歩いているけど、家へたどり着けない。
 もしかして、これは夢を見ているのか?

 もう一度同じ角を曲がり、目を見開いて進む。すると、今度は少し広い通りへ出た。目の前には知らない公園がある。
 心の中では行かないと決めているのに、足は中へと動く。揺れるブランコに人影が見えた。
 月明かりに照らされているのは、日南先生だ。

「こんなところで、何してるんですか?」
「待ってたのよ、梵くんのこと」

 いきなり話しかけても、まるで来ることを知っていたかのような反応。おまけに、普段言いもしない名前呼びだ。

「ここはどこですか?」
「どこだと思う?」
「こんな公園、家の近くにありません。夢……なんですよね?」

 すべり台に砂場。僕らの他に人影はない。この地球上で、たった二人きりしか存在していないかのように空気の音すら聞こえない。