「梵くんってさぁ、彼女いる?」
「……いません」
「じゃあ、好きな子はいるんじゃない?」

 心臓が揺らいだ。これを動揺と呼ぶかと言えば違う気もするけど、なぜか落ち着かない。
 きっと、僕はこの人が苦手なんだ。表と裏の顔を使い分ける所とか、見た目の雰囲気がなんとなく皆川と似ているから。

「急に何ですか? 金宮先生には、関係ないです」
「なんだよ、せっかく恋愛相談でもしてあげようと思ったのにさ」
「そういうの、興味ないので」

 適当にあしらおうと思った。素っ気ない態度をしていたら、すぐに諦めてくれるだろう。

「見えちゃってるんだけどなぁ。梵くんの心に、浮かんだ人」

 心臓のあたりをこつんと突かれて、首のあたりからたらりと汗が流れた。

「良いアドバイス出来ると思うけど。俺、人のココロ読めちゃうから」
「僕、高校生ですよ? からかってるなら」
「時間をやり直してる君なら、信じてくれると思ったんだけど?」
「…………は?」

 階段の一番上から押されたような衝撃が体に走る。涼しいはずの部屋が暑く感じて、一気に冷や汗が噴き出て来た。体の水分が吸収されて、喉が乾燥していく。
 どうして、この人がタイムリープのことを知っているのか。

「ぜーんぶ知ってるよ? 梵くんのココロの内は、全てお見通しだから。八月十八日……もうすぐだね」

 ──ガタンッ。机を押し除けて、金宮先生の体を床に押し倒していた。
 荒くなる呼吸。肩を掴む指が震えている。違うと分かっているのに、皆川と重なってしまう。

「怖いよ、梵くん。俺、そんな趣味ないんだけどなぁ」

 顔色ひとつ変えないで、僕の目を見据(みす)えている。反応を見て楽しんでいるのか?
 でも、この人はタイムリープも、八月十八日に何か起きたことも分かっている。

「あなた、誰ですか?」
「誰って……ただの家庭教師、金宮(たける)だよ? 他に何か聞きたいことはある?」

 冗談染みた話し方が妙に落ち着いていて不気味だった。胸の内を全て覗かれている気がして、(おぞ)ましくて、僕は彼から手を離した。

 ──この男は、一体何者なんだ。